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2020・21年考察

ベーシックインカムを「一億総生活保護」と考える左派学者の愚

 当サイトで提案の日本独自のベーシックインカム、「ベーシック・ペンション生活基礎年金」法律案の前文に掲げた、同法制定の背景・目的(当記事最後に掲載)の各項目ごとに補足・解説を行うシリーズ。
 先日その2回目で
生活保護制度を超克するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-2(2021/6/15)
という記事を投稿しました。

 その課題とした「生活保護制度」とベーシックインカムとの関係について、以前ネット上で
「一億総生活保護」化!?ベーシックインカム導入で危惧される未来とは
という対談記事があったことを思い出しました。

 2021年2月28日に公開された、この朝日新聞系のネット公開記事は、朝日カルチャーセンター主催で2020年11月に行われた対談講座「マルクスとプルードンから考える未来」の内容の一部を加筆・編集したもの。
 『いまこそ「社会主義」 混迷する世界を読み解く補助線 (朝日新書)』の共著者、的場昭弘氏と、『武器としての「資本論」』(2020/4/10刊)の著者、白井聡氏の対談の要約です。
 その内容のポイントを紹介し、ベーシックインカムにまとわりついた、あまりにも稚拙な誤解・先入観について考えることにします。


 なお、『いまこそ「社会主義」 混迷する世界を読み解く補助線 (朝日新書)』をテーマとして、別サイトに
以下のシリーズを掲載済みです。

格差拡大の暴走を制御できない資本主義:『いまこそ「社会主義」 』から考える政治経済社会システム-1
(2021/5/15)
社会主義の多様性・多義性を知っておこう:『いまこそ「社会主義」 』から考える政治経済社会システム-2(2021/5/18)
紙一重の右と左の国家主義:『いまこそ「社会主義」 』から考える社会経済政治システム-3(2021/5/21)
資本主義、社会主義、民主主義をめぐるこれからの10年、20年、30年を考える:『いまこそ「社会主義」 』から考える社会経済政治システム-4(2021/5/25)

 また、同書において的場氏がベーシックインカムについて触れており、その内容を基に、当サイトで
マルクス・マニア、的場昭弘氏のベーシックインカム認識と限界(2021/4/24)
という記事も投稿済みです。


ベーシックインカム論は、労働者が資本から自由になる道か、国民が国家に取り込まれる道か


 いま、貧困や経済格差の問題を解決する方法として、国が全国民に一律で必要最低限の生活費を給付する「ベーシックインカム」が注目されている。
ベーシックインカムの実現可能性は、どのくらいあるか、
ベーシックインカム論は、労働者が資本から自由になる道か、国民が国家に取り込まれる道か

こういう命題に基づいて編集サイドから行なわれる問いかけに対する両氏の答えを抜粋していきます。

Q1.ベーシックインカムは、企業のためのもの

もともとは資本主義的な発想の中から出てきたベーシックインカムの概念(的場氏)

 資本主義経済では、消費者にたくさん消費してもらわないと、企業活動を継続することができない。
 消費者である国民の所得の保障を国家がすることで、企業活動が滞りなく行えるようにしましょうというのが、ベーシックインカム論の背景にあるもともとの考え方。

 近未来、企業活動がどんどん自動化され、ロボット化して、仕事を失った労働者は賃金をもらうことができず、積極的な消費が行われなくなるため、消費を行ってもらうための方策のひとつとして、ベーシックインカムが。
 そこで、国家が国民にあまねくお金を配るための原資をどうやってつくるか
 企業活動が滞りなく行えるようにするという目的に照らせば、企業に税金をかけるというのが合理的。
 その税金を原資にして、国家が労働者にお金を与えて、消費してもらうことに。
 ベーシックインカムを受給するとは、消費のために動かされていく世界に生きるということ。

 ベーシックインカムには、労働者が自らの労働権を行使して、その対価として得られるべき所得を得て生きていくという発想がなく、本当にそれでいいのか。

 政治家の中にはベーシックインカム論を立ち上げようとする人たちもいますが、いまひとつ説明しきれない理由は、いったい誰が何のためにベーシックインカムをやろうとするのかということが明確にされていないから。


 想像力が豊かというべきか、貧しい故というべきか、AI社会の労働・雇用を想定しての例え話が初めに来ると、あれっと思ってしまいます。
 まあ的場氏の想像力については、先述した記事
マルクス・マニア、的場昭弘氏のベーシックインカム認識と限界(2021/4/24)
で述べていますので、今回は深入りしません。
 というか、深入りするほどの深さはないのですが。

Q2.ベーシックインカムは、人間を不幸にするか

国民一億総生活保護者化する(白井氏)

 たぶん精神的にネガティブな影響が広がる結果にしかならない。
 国民一億総生活保護者化するっていう感じになっちゃうのではないか。
 ベーシックインカムは、それをもらいながら暮らすことで、「何もしなくていいんだろう。医療費タダだしな。あー、なんて安楽で、充実もしているな。本当にこれが最高の生き方だ」と思える人がどれほどいるか。
 たぶん、そんな人はほぼいないと思う。
 それが、人間のある種、社会的本能ではないか。
 「自分が社会に対して何も与えることができていない」と思いながら、社会からベーシックインカムを一方的に給付を受けるという状況が、人間はすごく不愉快、不本意なことで、心がすさみやすいという問題を抱えているのではないか。
 労働は、人間という存在にとって極めて本質的なものであり、人間らしくあるための条件
 労働をしないでお金だけもらえると、その条件を満たされないことで、生活保護受給者の精神的苦境が全国民的に広がっていくっていうことが起きるんじゃないのかなと危惧する。

 皆さんは、どう受け止められたでしょうか、この内容を。
 結局、「働かざるもの食うべからず」の、右と同じ考え方をしている。
 人間とはこうだ、こうあるべきというお告げ。

 とても学者とは思えないレベルの、稚拙な内容・考え方をする人、と、ネットでこの記事を読んだときに感じたものです。
 恥ずかしいのですが、今の今まで、白井聡という人を知らなかった。
 そのままじゃ流石にまずいと、今Wikipedia経由で調べてみると。

 なんとまだ若いではないですか、43歳だと。
 なんと不勉強な、と思いつつ文字を追うと・・・。
 なな、なんと!

 去年、そんなことがありましたね。
 ユーミンが、安倍晋三総理辞任会見について「泣いちゃった。切なくて」などとコメント。
 それに対してFacebookに「荒井由実のまま夭折すべきだったね。本当に、醜態をさらすより、早く死んだほうがいい」と書き込み炎上したその張本人が白井氏だったと。
 SNS上のこういうバカバカしい話はほとんど追いかけないので、誰がやったのか調べもしなかった。

 やっぱり、一応頭のいい人にたまには居る、おバカさん、ガキの類のひと。
(一応お断りしておきますが、私は、もちろん安倍某を支持する者ではありません。)

何もしなくていいんだろう。医療費タダだしな。あー、なんて安楽で、充実もしているな。本当にこれが最高の生き方だ
というくだり。
 なんだかユーミンに対して発した言葉と同レベルの、幼い内容と思いませんか。
 その後SNSで「自身の発言の不適切さに思い至りました。深く反省をしております。」と言ったとか。
 ここでは、「自身の発言の未熟さに思い至りました。深く反省をしております。」と取り消すべき内容と思います。
 それにしても、この人、博士号を持っている。
 そして、こういうバカげた発言や考え方をする人であっても、もっともらしく、『武器としての「資本論」』という本を出版できている。
 右も左も、メディアも、どこかおかしい日本という国です。

国家に飼いならされてしまう危険性(的場氏)

残りは、こういう内容です。

 労働は、所得とは関係なく存在しているものであり、人間と人間をつなぐものでもあり、労働を抜きにしたら人間関係がなくなる。 
 国家からお金を受け取るということは、国家によってまさに飼いならされてしまうという危険性をはらんでいる。
 ベーシックインカムは、すごくおもしろいアイデアだと思うが、実施するには、さまざまな工夫が必要である。


  労働抜きでは人間関係がなくなるという独善。 
  国家に飼いならされるリスクは、左派によるベーシックインカム導入でこそ充分ありうるものです。
  まあ、それよりも何よりも「すごくおもしろいアイディア」という認識そのものが、面白く、鼻白むもの。
 そこまでの認識ということです。

コロナ禍でも、ロジカルな議論、現実的な方法論に近づけないベーシックインカム論

 それにしても、左派においてもまともに、ベーシックインカムについてしっかり取り組み、政策や法律次元での提案まで持ち込む例も見ることができません。
 どうしても、完全雇用を理想とすることから脱して、あるいは、経済至上主義からも脱して、社会保障や基本的人権としてベーシックインカムを考える発想にアプローチできないのです。
 それは当然、財源論の罠に自らを閉じ込めてしまい、理想論からも現実論からも、自らを遠ざけてしまうことになります。
 巷の左派諸兄がやっているのは、個別・部分的なそれらしい提案や活動、他国の政策事例、意見交換レベルどまり。
 既成政党のベーシックインカムに対する考え方・方針も、以下のように見るべき、読むべきレベル・内容のものがないことにも、寂しく、厳しい現状が表れています。

れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)
立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問(2021/4/6)
日本維新の会のベーシックインカム方針:本気で考えているとすれば稚拙で危うい曖昧BI(2021/4/26)
ベーシックインカムでなく ベーシックサービスへ傾斜する公明党(2021/4/28)
国民民主党の日本版ベーシック・インカム構想は、中道政策というより中途半端政策:給付付き税額控除方式と地域仮想通貨発行構想(2021/6/6)


 それよりも何よりも、コロナ禍でより現実的に考える必要性を増している「生活保護」や貧困・格差問題への抜本的な対策・方法の一つとして考えうるベーシックインカムに、なかなか近づくことができない現状を、このバカな学者のバカげた発言で再認識せざるを得ないことが、残念でなりません。

(参考):ベーシック・ペンションについて知っておきたい基礎知識と5つの記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)


 
 

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