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2020・21年考察

日本ベーシックインカム学会の竹中暴論及び諸説へのスタンス:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-3

週刊ポスト発行の小学館がWEB上で公開している「マネーポストWEB」で公開した「ベーシックインカム」に関する記事に以下があります。

ベーシックインカム導入で50代会社員が大損か 月8万円収入減も(2020/10/12)※週刊ポスト2020年10月16・23日号
宮内義彦氏の菅政権への提言 「BI検討を」「法人税下げる必要ない」(2021/1/12)※週刊ポスト2020年1月15・22日号

この2つの竹中平蔵のSI説をめぐる記事をもとに、当サイトに前回、前々回と投稿したのが以下の記事。

 竹中平蔵の暴論はシカトすべき!:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-1(2021/1/14)
宮内義彦氏の話を耳をかっぽじって聞け、竹中平蔵:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-2(2021/1/15)


今回は、順序が入れ替わりましたが、2つの記事の間、今年1月6日に、マネーポストWEBが公開した、
ベーシックインカム導入議論 所得格差を埋める意義と財源確保の不安
と題したベーシックインカム関連記事を取り上げます。
この内容は、上記宮内氏のインタビュー記事と同じく、<週刊ポスト2021年1月15・22日号>に掲載されているものです。

昨年の竹中暴論により起こった議論・動向に対してのベーシックインカム学会会長と一識者の考えを聞き、紹介する形をとるものです。



日本ベーシックインカム学会会長の樋口浩義氏の意見

まずこういう課題の場合、脚が向くのが学会や研究者、ということで、日本ベーシックインカム学会会長の樋口氏へのインタビュー。
かなり端折られたようですが、概要は以下のとおりです。

 「コロナ禍で困窮する人が増えるなか、所得格差、経済格差を埋める政策
 としてBIが注目されている。
 数十年後の日本を想像すると、労働の大部分がロボットに取って代わられ、
 多くの人が職を失う。国民の生活を維持するため、今後ますますBIの議論
 は必要。
 現在の生活保護制度は必要な人の2割程度にしか行き渡っていないという
 データがあるが、BIなら解消できる。『財源がない』という批判もあるが、
 もちろん一気に導入するのは無理。まずは現在の社会保障と重複する無駄
 な部分を見直しながら、社会的セーフティネットをさらに拡大する方向で
 段階的に導入していくべき。」


同記事では以上の内容ですが、樋口氏はFacebookで、このマネーポストWEBに掲載された記事について、以下のように述べています。

 「記者が大部編集しています。現行社会保障の強化も強調したはず。
  財源の議論もこれからの課題と言っているつもり。」


そのコメントに対して、

 同会理事の山中鹿次氏が
 「公共通貨や国債の大量発行は、議論として「可能」であっても、世論と
 して「それでやろう」の説得力を持つ段階ではないと思う。再度10万給付
 ならまだしも、毎月10万給付は余計世論に不安感を与える印象。4人家族
 だと毎月40万、勤労意欲問題も出てくる。(ある人に)そこらを批判する
 と営業妨害だ、ネガテイブだとブロックし議論しない。ここらを改めない
 と課題は大きくなる。」

 桂木健次氏(富山大学名誉教授)は
 「数多の、と言うより99%のマクロ経済学学者ですらが、再度の定額給付
 金10万円には二の足を踏むのは、日銀保有の満期到来債(政府短期証券決
 済も)のマネタイズ(→政府財源「公債金等」)が発行通貨益の取出しである
 と言う気付きには至っていないことからの慄きにある。一連のコロナ自粛
 代替の経済支えのために全世界でなされる「政府債務証券(国債)」の増発
 の帰趨を追う償還メカニズムとしての中央銀行の機能に、「国債とは信用
 通貨である」気付きに待たなければならない。そういう意味では、
 「小出しの生活と経済補償」がベターなのかと。」

 諸星たお氏(訪問(重度)介護ヘルパー職)は
 「社会的セーフティネットを拡大する方向、という記述で何とか示してく
 れていますね。あとは読み手のバイアスですね。」

とフォローしています。

なお、以下の記事で取り上げた、ベーシックインカムと称して限定的地域通貨県札「房BOU」の発行を公約に挙げて千葉県知事選に立候補を表明した皆川眞一郎氏は、同会の理事でもあります。
⇒ ベーシックインカム地域通貨県札「房」発行公約:千葉県知事選立候補予定の皆川眞一郎氏(2021/1/9)

加えて、貨幣発行益を原資とするベーシックインカム発行給付を主張し、コロナ禍での個人への特別定額給付金の継続的支給を主張する井上智洋駒澤大准教授は同会副会長です。

という具合に、日本ベーシックインカム学会は、一つのBI論に集約することをめざしているわけではなく、まさに学会として、自由な議論の場となっています。
実際、これまで多くの論者が研究会等で発表していることが、そのHPで見ることができます。
日本ベーシックインカム学会公式サイト (jabi.jp)
これは非常に興味深いです。
(できれば、それらの要約を活字情報として掲載して戴きたいのですが。)
従い、学会会長の意見が、同会の総意ということでもないことも確認しておきたいと思います。
会長がイヤにAI社会を想定して語っていることに、他の主張内容を考えると違和感を感じるのですが、これは副会長の井上氏の影響が強いためかと。


島澤諭・中部圏社会経済研究所研究部長によるBI導入の問題点

そして、樋口学会会長の談に加え、どういう経緯での人選か分かりませんが、この方の意見も、竹中暴論とそれに対する樋口会長の意見、双方を受けてかのように、以下のように併述されています。

 「BIの具体的な制度設計は、まだ示されていない。竹中氏の『1人7万円』
 案にしても、『現在の社会保障制度にBIをプラスする』という折衷案にし
 ても、財源をどうするのか。それを提示できない限り『医療費や年金が削
 られる』という疑念は消えない。
 財源確保のために消費税や所得税を増やしたのでは、国民の生活はより厳
 しくなる。特に現役で働く若い世代の負担が大きい。国民の生活を救うつ
 もりが本末転倒になりかねない。
 もし社会保険が全廃されれば、社員の保険料を支払っている企業の負担が
 軽くなる可能性がある。それが狙いの推進派もいるかもしれない。」


双方合わせて、ポスト誌の突っ込み具合、関心度・情報収集レベルというか。
まあ妥当といえば妥当でしょう。

確かに、しっかりとした法律案レベルの論述や提案は出されていません。
これは論じ、提案するサイドの問題ではあります。
しかし話題性だけを追い、煽っているかのようなマスコミにも(責任はありませんが、)それなりの自覚くらいはもってほしいものです。

ただ、加えて確かなことは、既存政党のどこもベーシックインカムを真剣に検討しようという動きが感じられないこと。(もしかしたらあるのかもしれませんが。)

そして、マネーポストWEB、すなわち週刊ポスト誌においても当然同じですが、同記事の終わりは、やはりこんな終わり方になっています。

はたして日本にBIは導入されるのか否か ──。

否か、ではなく、導入すべきなのです。


興味本位のマスコミBI論から脱し、議論・提案のレベルを挙げていくために


種々論じている人、グループにおいても、関連する諸制度・法律を含め、法律案と呼べるレベル・内容のものを提示していないのも事実。

樋口会長のグループの皆さんは、穏健・良識派と思いますが、さほど突っ込んだ諸制度の在り方の議論・提案に至っていません。
どちらかというと財源限界論で歩みを止めての、限定的・漸進的移行・導入論。
また学会研究会のゲストスピーカーにもそこまでのものを求めているようにも思えません。
意地悪く言うならば、やはり一種の「モラトリアム」
課題先送りのスタンスに見えています。

島津氏の言は、評論としての一般論。
だれでも言えそうなことですし、結局、樋口氏グループの意見と共通なので、それを「財源論の罠」とこれから表現していくことにしましょうか。

ただ、一つ重要なヒントが、先述の桂木の発言の中にあります。
それは、
・日銀保有の満期到来債のマネタイズが発行通貨益の取出しであること
言い換えて
・コロナ自粛代替の経済支えのために全世界でなされる「政府債務証券(国債)」
の増発の帰趨を追う償還メカニズムとしての「国債とは信用通貨である」という中央銀行の機能

です。

私は、この中の「コロナ自粛代替の経済支えのために全世界でなされる」という前提ではなく、「すべての国民が一定水準以上の生活をしていくために日本国内で導入される」ベーシックインカムという次元での財源論及び各論の展開に、できるだけ早く持ち込む努力が必要と考えています。
ただ、発行通貨益説が不可欠かどうかの検討は続ける必要があるとも思っていますが。

週刊ポストが追いかけるベーシックインカム。
そこに何かしらの、強いインパクトを与えることができること、今後の課題の一つに組み入れておこうと心していきます。

(参考):<週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う>シリーズ
 竹中平蔵の暴論はシカトすべき!:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-1(2021/1/14)
宮内義彦氏の話を耳をかっぽじって聞け、竹中平蔵:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-2(2021/1/15)
日本ベーシックインカム学会の竹中暴論及び諸説へのスタンス:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-3(2021/1/16)

 

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  1. 2021年 9月 03日