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2020・21年考察

国民民主党の日本版ベーシック・インカム構想は、中道政策というより中途半端政策:給付付き税額控除方式と地域仮想通貨発行構想

ベーシックインカム(以降BIとすることがあります)、あるいは当サイトが提案するベーシック・ペンション(以降BPとすることがあります)が実現するには、政治が変わる必要がある。
望ましいBI(またはBP)を公約とする既存政党が現状ないため、そして特定政党が望ましいそれを公約にするまでには、まだまだ時間を必要とする。
ベーシック・ペンション実現は、10年がかり、という理由の一つがそこにあります。

では、既存政党は、現状BIについてどのように考えているのか。
その問いに対する答えを探すため、これまで、以下の3政党を取り上げました。

れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)
立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問(2021/4/6)
日本維新の会のベーシックインカム方針:本気で考えているとすれば稚拙で危うい曖昧BI(2021/4/26)
ベーシックインカムでなく ベーシックサービスへ傾斜する公明党(2021/4/28)

今回は、国民民主党です。
ここで取り上げる情報は、同党のホームページから抽出し、整理加工したものです。


国民民主党「綱領」から

すったもんだして、衆議院選挙対策を睨んだ昨年2020年の野党再編成で、多くの議員が立憲民主党に流れ、小粒化した国民民主党。
新体制で2020年9月15日に策定された「綱領」で、理想とする以下の3つの「基本理念」を掲げ、
穏健保守からリベラルまでを包摂する国民が主役の改革中道政党」を創ると、宣言しています。

1.「自由」:公正・公平・透明なルールのもと、多様な価値観や生き方、人権が尊重される自由な社会
2.「共生」:誰もが排除されることなく、互いに認めあえる共生社会
3.「未来への責任」:未来を生きる次世代への責任を果たす社会

そして、具体的に「私たちのめざすもの」として8項目を提示。

1)「人への投資」を重視し、公正な再分配によって理不尽な格差をなくし、持続可能な経済を確立
2)少子高齢化や過疎化を克服し、安心の社会保障を実現。
3)子どもと若者、孤立して生きざるを得ない人々、社会的マイノリティ、障がいのある人々、非正規雇用で働く人々等、声の届きにくい人々に寄り添う。
4)地域主権改革を進め、豊かさが実感できる、自立した活力ある地方に。
5)政官財のしがらみをなくし、政治と行財政の改革を誠実に実行。
6)立憲主義と国民主権・基本的人権・平和主義を断固として守り、国民と共に未来志向の憲法を構想。
7)専守防衛を堅持し、現実的な安全保障を築く。
8)開かれた国益と広範な人間の安全保障、恒久平和と核兵器廃絶をめざす。

⇒ 【PDF】国民民主党綱領

その中の、社会保障に関する項目について、ベーシックインカムとが繋がりそうな内容・表現を追ってみました。

国民民主党の政策の方向性

「改革中道政党」として、国民生活に現実的に向き合うという同党。
方向性は、以下のとおりです。

多様な価値観を寛容に受け入れる政治姿勢をとり、
リベラル・保守といった単純な二項対立や、特定の主義主張に拘泥するのではなく、国や国民が直面する諸問題に対して現実的に向き合う「改革中道政党」として、重視するのは「対決」ではなく「解決」。
特に、国民の生活に直結する社会保障政策や経済政策に最大限の力を入れ、社会保障と経済に強い新党を目指す。

心意気は評価できますが、中身は果たしてどうか。
根本理念として「共生」を掲げますが、「歴史的・社会的・地球的共生」と漠然とした内容なので、ここではスルーします。
何より、実は、「共生」は、立憲民主党も掲げているもので、大差ないのです。
⇒ ◆ 立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問(2021/4/6)

次に目に止まったのが、「未来を先取りする改革政党」とうたった部分。
テクノロジーの進歩の活用例として、
ブロックチェーン技術を取り入れた地域通貨の発行で、地方が補助金に頼らず、自立して経済を活性化させることも夢ではない。」というもの。
ここは、要チェックで、後から取り上げます。
そして、革新的イノベーションによって経済成長の実現や社会問題の解決をめざす「イノベーション・ニューディール政策」を推し進め、経済社会システムと人々のライフスタイルを次世代型へとアップデート。
そのための、投資を促す大胆な規制緩和や減税・非課税策を講じる。
仮想地域通貨技術程度がイノベーションということでは寂しいですが、本来期待したいのは、政策自体の未来を先取りしたイノベーション。
改革自体にイノベーションが表現される必要があるのですが、望むべくもありません。

「人生100年時代」の尊厳ある生活保障は、責任ある再分配政策で実現できるか

前に進みましょう。
格差・貧困、子どもの貧困が深刻度を増すなかで進む「人生100年時代」
同党は、そこで尊厳ある、持続可能な生活保障制度の整備・導入を掲げます。
表明しているのは、

全ての人が負担と受益を共有するという、いわゆる一体改革的な考え方は、私たちが「未来に対する責任」を綱領に掲げている以上、避けられない
そのために、個人の自己責任に全てを押しつける立場はとらないが、政府の再分配機能を重視した政策、給付と負担のバランスのとれた政策をまとめあげ、建設的議論を展開する。

というもの。
果たして、建設的な議論により、同党がめざす社会保障・生活保障制度は確立できるでしょうか。
今の自公政権の分配政策とどう違いを出すのでしょうか。
本気でやる気があるなら、その問題を具体的にどう変革するのかの、踏み込んだ提案が必要。
まあ、基本理念レベルで、そこまで踏み込む必要はないとしても、少なくとも今年の衆院選に向けては、具体的な制度改正案を提示すべきでしょう。
極めて大きい、重要な課題ですから。
ただ、初めに分配もしくは再分配を論じる前提とすると、ベーシックインカム政策には期待できないものになることは簡単に想像できます。

低所得者対策としての日本版ベーシック・インカム構想、給付付き税額控除方式による基礎的所得保障制度導入

そして、一応具体的に打ち出しているのが、以下。

基礎年金の最低保障機能を高め、安心できる生活保障の制度を導入
高齢者に最低限の衣食住の安心を提供するため、空き屋を利用した低家賃の高齢者住宅を提供
抜本的な少子化対策として、子ども手当などの現金給付や、教育の無償化などの現物給付による大胆な子育て・教育負担を軽減
低所得者対策として、英国のユニバーサル・クレジットなどを参考にした給付付き税額控除などの基礎的所得保障制度を導入(日本版ベーシック・インカム構想)


「人生100年時代」社会における、尊厳ある生と死を保障する政策にはつながらない日本版ベーシック・インカム構想。
これをベーシック・インカムと呼んでは、またまた誤解を生じさせ、本物のベーシックインカムの導入を遅らせることになってしまいます。
なにより、給付付き税額控除方式は、<低所得者対策>としているように、適用対象が限定され、所得がない人々には関係がない制度であり、国民全員を対象とした制度ではありません。
(参考)
⇒ ミルトン・フリードマンの「負の所得税」論とベーシックインカム(2021/2/19)

また、子ども手当額をいくらにするのか、教育無償化はどこまでなのか等、大胆な子育て・教育負担の軽減策の内容は、当然ここではスローガンにとどまり、その額と財源についても触れてはいません。
大胆さは、大雑把さにとどまります。

地方の分権・分散化、スマート・シュリンク戦略における課税自主権強化と仮想通貨による地域通貨発行権付与

また、人口減少がもたらす地方への影響を憂慮し、これから必要なのは、地方の分権・分散化と、賢く縮む「スマート・シュリンク」戦略を掲げます。
その中の政策アイディアとして、少しばかり唐突な感じがするのですが、
1)課税自主権の強化
2)仮想通貨を使った地域通貨発行権の付与
など、地方自治体の権限を拡大させる方向での提案を行っています。

地方分権化、地方への税収源の移譲などは、今後不可欠と思いますが、ここで仮想通貨による地域通貨を、地方が発行することを提案したことは評価したいと思います。
また、「シュリンク」は縮みを意味するもの。
包括的に経済のシュリンクを想定しているのか、地方のみのシュリンクに限定したものなのか。
地方への財源の移譲は極めて重要であり、少しでも具体性のある政策を打ち出すべき。
仮想通貨を持ち出すならば、デジタル通貨という表現を用いるべきではないか、とか。
いずれにしても、インパクトは弱い。


ベーシック・ペンションの一部を、地域デジタル通貨で発行する


ブロックチェーン技術を取り入れた地域通貨の発行で、地方が補助金に頼らず、自立して経済を活性化させることも夢ではない。」という内容は、要チェックとしました。
なぜなら、これは、当サイトが提案している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金(BPとします)の構想・内容と一部類類似しているからです。
まず、BPでは、仮想通貨ではなくデジタル通貨としていますが共通のものとみなすことができます。
そして地域通貨であることは、BP自体が、日本という国家だけで利用できる一種の地域通貨であること。
もう一歩踏み込めば、BPの一部を、住民が暮らす都道府県内だけで利用できる、自治体別デジタル通貨として発行・給付もシステム的には可能であるからです。

ただ、デジタル通貨システムの開発・導入には、まだ相当時間が必要ですから、段階的導入方法として、一部のBPを地域専用電子マネーで給付することが、より可能かつ現実的かと思います。
それにより、地域経済の安定化が図られることになるでしょう。

革新的イノベーションを標榜するのですから、デジタル地域通貨とベーシックインカムを一体化した構想くらいには行き着いてほしかったところです。

従来の中道のイメージと実態から脱却できない自称中道政党とそのベーシックインカム構想の限界

野党のバラバラな現状に終止符を打ち、かつ、右か左かといった二元論的な対立を乗り越え、社会全体を包み込む温かさをもった政治勢力の結集をはかるための「第一歩」


こう言ってスタートした国民民主党ですが、理念に掲げる「共生」には、インパクトが感じられません。

そして、ことベーシック・インカムに関しては、本質的にはベーシック・インカムとは呼べない「給付付き税額控除方式による基礎的所得保障制度」を「日本版ベーシック・インカム構想」と呼ぶこと自体に、社会保障制度と経済に強い政党とは到底評価できない、弱点・限界があります。

先述しましたが、仮に中道と名乗っても、その政策の中に、他の政党が掲げていない方針や方策、場合によっては政治思想を掲げて、従来にない中道のあり方を示すべきでしょう。
それがない限り、結局、他の政党が掲げる政策を集めてくれば、中道政党の一つができてしまう。
さしてどの政党とも違わない政策になってしまうのです。

まあ、本稿は政党評価ではなく、目的はあくまでもベーシックインカムまたはそれに代わる政策を掲げているか、掲げているならどういう内容かを調べ、評価すること。
残念ながら、というか、当然というか、国民民主党にも期待できる内容は、社会保障制度・政策面からも経済政策面からも、当然、憲法からも読み取ることはできませんでした。

ということで、やはり、当初から前提としているように、新しい政党の登場期待か、既存政党の政策大転換イノベーション期待の活動を想定したサイト運営を粘り強く続けていくことになります。

参考:<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい4つの記事>

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)

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  1. zoritoler imol

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