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2020・21年考察

ウェルフェアでもなく、ワークフェアでもなく、ヒューマンフェアとしてのベーシック・ペンション

ウェルフェア、福祉を起点とするベーシックインカム


元来、福祉の在り方の一つとしてその発想の起源をもつベーシックインカム。
それは、中世16世紀イングランドにおける「救貧」対策に、明確な起源を見ることができます。
もちろん、日本でもそれより遡った時代に、救貧政策ということができる事例が示されています。
しかし、国家レベルでの明確な福祉政策として考えるためには、イングランドの例で話を進める方が理解しやすくなると思います。
その歴史上の発生と進展・変化について、当サイトで既に以下の記事で触れました。

イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)

そこで紹介しているように、救貧法自体が完璧であるはずもなく、紆余曲折を経て、19世紀における新・救貧法へ、そして、新たな福祉国家概念の元での「福祉」、いわゆる「ウェルフェア」政策の展開に繋がりました。
またそれが、ベーシックインカムの起点・発祥ともされる所以です。

ウェルフェア(福祉)から、ワークフェア(労働至上主義)へ

そして、20世紀に入り、先述した記事
福祉国家論とベーシックインカム:福祉国家から基本的人権社会保障国家へ
の文中の小見出しに以下を用いました。
宗教の時代の救貧から、経済の時代、そして民主主義の時代における福祉と貧困対策へ

そこでの「経済の時代」は、資本主義の時代と一体のものです。
それまでの福祉、フェルフェアは、キリスト教とりわけプロテスタンティズムの教義・解釈としての「働かざるもの食うべからず」の視点から、労働を絶対的な基盤に据えての福祉、すなわち「ワークフェア」に変化・変質を遂げました。

先述の記事中で示した、山森亮氏著『ベーシック・インカム入門』の中での現代の福祉国家のモデルは以下です。

 1.完全雇用の達成を前提とし
 2.一時的なリスクには、事前に諸個人が保険料を拠出する社会保険が対
  応し、
 3.それでも無理な場合は、例外的に、セーフティネットとして生活保護
  など、無拠出だが受給にあたって所得などについてに審査を受けなくて
  はならない公的扶助と呼ばれる給付を行う。

この3つの福祉国家モデルにとして規定されている「ワークフェア」とは、どんなもの、コトを言うのでしょうか。


ワークフェアとは

ワークフェア(Workfare)とは、ワーク(Work)とフェア(Fare)の造語です。
働くことを条件に公的扶助を行うもの、と解されます。
働くことで精神的・経済的自立が促進できる。
働くことでやりがいや生きがいを感じられる。

こういう考えに基づくものです。

日本の「母子及び父子並びに寡婦福祉法」「生活保護法」における労働至上主義ワークフェア

例えば、日本においては、現行の
【母子及び父子並びに寡婦福祉法】
を読むと、第4条に、(自立への努力)として
「母子家庭の母及び父子家庭の父並びに寡婦は、自ら進んでその自立を図り、家庭生活及び職業生活の安定と向上に努めなければならない。」
とあります。
また他の条項にも、基本は
・(母子・父子・寡婦への福祉資金の貸付け)のように「貸付け」制度
であり、
・(母子家庭自立支援給付金)も、教育訓練・職業訓練を受けることが条件で支給されることとされています。
すなわち、職業生活を営むことを条件として貸付や給付が行われるわけです。

では、果たして、その努力がしっかりと報われる労働市場であり、雇用の保障、一定レベル以上の収入・所得を得ることができる労働は保障されているのでしょうか。
現実には、子どもの保育・教育を等しく受ける権利を行使もできず、非正規雇用や夜の仕事を強いられている状況が日常化しており、ウェルフェア自体が保障されていない例が多々あるわけです。

また、
【生活保護法】第24条の(申請による保護の開始及び変更)として規定する第4項に
要保護者の資産及び収入の状況生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む。)」
とあるように、就労・求職活動状況等とそれによる所得の状況が、必ず生活保護の審査・認定に大きく影響することが示されています。

すなわち、どちらにおいても、「労働至上主義」「労働第一主義」の考え方を基盤とした「福祉」であり、原始的なウェルフェアとは、むしろ離れていく印象さえ持たせるのが、ワークフェアではないかとさえ思うのです。
とてもとても
・働くことで精神的・経済的自立が促進できる。
・働くことでやりがいや生きがいを感じられる。
ことを導き出す制度とは言えませんね。

これが先進国と自称する日本の福祉、ウェルフェアの現状です。



もう一つ、先の山森氏の福祉国家モデルの3項目目にあった「公的扶助」について、私見を書き添えておきたいと思います。

公的扶助とは、その本質

よくよく考えてみると、否、シンプルに考えてみても、公的扶助に用いる公的資金は、元々は、国民や企業が納める税金もしくは保険料です。
公共事業を行うために国民や私企業が共同負担した公共負担資金、公共的資金、公的共同資金なのです。
その資金の取り扱い、配分方法を、その時の政府と政府が管理監督する官庁が、法律に基づき、決定し、執行するわけです。

その決定が法に則って適正に、公正に行われればよいのですが、恣意性があったり、規定の判断基準がぶれたり、限りがある財源を理由に、運用管理を行き過ぎて厳格にしたり、申請者の気持ちにスティグマを与えたり、と、「公」の使命・責任を逸脱、忌避することに至るわけです。

すなわち、公的扶助の原資である公的資金は、決して政府や官庁の勤労で稼いだ資金ではなく、国民の負担によるものであり、公的扶助事業は、国民の負託を受けての行為であることを、認識していないことに、ワークフェアの機能不全の一因があるとも言えます。


ワークフェア(労働至上主義)から、ヒューマンフェア(人間本位主義)へ


ワークフェアの正体

上記のように、ワークフェアにおいて前提とするワークは、雇用されての労働を想定していると考えてよいでしょう。
というか、それが前提であり、勤労の義務を強制しようというものです。
「働かざるもの食うべからず」の宗教的倫理が厳然としてあるのです。

従い、働くことができない人や、やむなく働くことができなくなった人も救われない可能性も暗に示していることになりかねません。
そして当然のことながら、自分が働きたくない仕事・職業であっても、働くことが困難な時間であっても、働くことができる健康状態にあれば、あるいは多少無理をしてでも可能ならば、働いて、少しでも収入を得て、その分は、公的な扶助から差し引いて支給することになるわけです。

そして育児や介護や家事などの家庭での無償の労働を行うことや、HPO法人などで無償のボランティア活動を行うことは、労働とはみなされないわけです。

これが、ワークフェアの実態・正体です。

基本的人権に基づく、無拠出・無条件支給のベーシック・ペンションは、人間本位主義ヒューマンフェア

ここに至って、従来のワークフェアの矛盾とムリをゴリ押ししてきた福祉国家を、21世紀には転換すべき状況に至っていると考えるべき、と理解できるでしょう。

(再確認)
福祉国家論とベーシックインカム:福祉国家から基本的人権社会保障国家へ(2021/2/27)

すなわち、原始的なウェルフェアの時代は乗り越え、矛盾に満ちたワークフェアは廃棄し、モデルとしての価値を創出することができなかった20世紀の福祉国家モデルから脱却し、基本的人権を基盤・基礎とした、人間主義、人間本位主義のヒューマンフェアに転換が必要になっているのです。

ベーシック・ペンションは、まさにその理念と目的をもち、具体的な方法論を携えた、21世紀の新たなヒューマンフェアとされるものなのです。

こちらも参考に
⇒ 国民配当ではなく、所得保障でもない、年金としてのベーシック・ペンション(2021/3/11)

<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい3つの記事>

⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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