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20,21世紀の思想・行動・動向

ドイツでUBI実証実験、2021年6月開始:武邑光裕氏によるドイツUBI事情-2

NewsWeek日本版に連載されている、メディア美学者・武邑光裕氏のコラム<欧州新首都:ベルリンから世界を読む>。
3月15日配信で
無条件ベーシックインカム:それは社会の革新なのか幻想なのか?
と題したレポートが公開されました。

その内容を紹介すべく、前回の
メディア美学者武邑光裕氏による無条件ベーシックインカム論とドイツBI事情-1(2021/3/7)
に続いての今回です。

無条件ベーシックインカムの有効性・意義

武邑氏は、一応一般論としてのUBIの有効性・意義についてこう言っています。

UBIは、労働市場だけでなく、私たちの日常生活のほぼすべてに影響を与える。UBIを用いたこれまでの小規模なモデル実験では、人々の生活満足度や健康状態も、経済的安全性によって改善されることが示されている。
また、社会の結束力が変化し、民主主義がより多くの参加と共有を通じて強化され、家族や女性がより安定を得られるようになり、環境に対する人々の行動も変化することが示されている。

果たして、民主主義がどれほど強化されているか疑問ですが、一応そういう傾向があるとしておきましょうか。

UBI実証実験の課題

一方、武邑氏はこうも指摘します。

すでに他国のパイロット・プロジェクトでもそうであったように、実験結果の意味合いは限定的になる可能性が高く、実験の成果に最初から疑問を持つ批判も多い。
その最大の理由は、実証実験プロジェクトの期間が限られているため、参加者には従来の仕事を続ける意欲が最初からあることである。

3年後には、自分たちの仕事だけで生計を立てる必要があり、参加者はプロジェクトの実施段階で既存の収入源を維持することに関心を持つ。
創造的な仕事を選択し、社会貢献をめざす人が増えるというUBIの効果は、3年間の期限付きでは実証することは難しい
人々が基礎所得を得ているにもかかわらず従来からの仕事を続ける理由は、いずれ3年後には給付されなくなるUBIの期限を反映した対応である。

この指摘は、ある程度理解納得できるものですね。
しかし、全員がそうだとも限らない。
すなわち、オール・オア・ナッシングと断定はできない。
UBIが与える種々の影響論は、ほとんどそういう性質をもつと私は考えています。
とりわけ、限定条件での実験の検証・分析は、そういう傾向もあった、そういう事例もあった、だがそれがすべてではなかった。
そういう注釈を付けておく必要があるわけです。


実証実験に必要な資金も限定的

そして、資金調達の問題について、同氏はこう指摘します。

費用は小規模なものに限定されている。
UBIが少なくとも社会的・文化的な生存水準をカバーするのであれば、その費用は実際には膨大なものとなる
今ある年金や児童手当、失業保険の受給権などがUBIによって消滅し、今日のすべての社会保障を現状のUBIだけで実現することは困難であるため、実際の社会支出は大幅に増加するだろう。

だから実験なのだ、と言ってしまえばそうなのですが、本来の、こうあるべきUBIとはまったく異なる条件での実験です。
私はそれはUBIとは異質なものと考えています。
ですから、今後も同様に行われる実証実験と称するものは、大抵、その効果・傾向などは事前に予想された回答を用意して行うものであると。
そしてその想定は正しかった、UBIの有効性・意義・目的は検証された、となるでしょう。

日本独自のUBI、ベーシック・ペンションを提案する私としては、それは決して歓迎するものではありません。
あまりにもUBI、そしてベーシック・ペンションの持つ目的・意義とはかけ離れている試みだからです。

(参考)
カナダオンタリオ州ミンカム等ベーシックインカム、実験導入事例紹介-1(2021/3/6)
BI実験と効果誘導に必要な認識:ベーシックインカム、実験導入事例紹介-2(2021/3/7)

BI目当ての移住者発生問題


武邑氏の懸念は続きます。

そして、最大の問題が残っている。
ドイツが一方的にベーシックインカムを導入すれば、それが引き金となる国際移住についての問題である。
もし一国だけでUBIを導入するとしたら、移住者にとっての影響は非常に大きく、国境を厳格に守らなければならないという議論を呼ぶ。
同時に、企業は生産拠点を海外に移せば、国は税収基盤を失うことになる。
そのため、UBIが国際的に調整され、多くの国で同時に導入されない限り、この制度は急速に瓦解する可能性がある

私が提案するベーシック・ペンション(BP)も、当然日本国民だけに支給することになっています。
そのBPに対して、当然ながら、偽装結婚で日本に入国する人が出てくるから反対、というメッセージを送ってくれた方がいました。

ヨーロッパなどは、そのようなリスクの程度ではないわけです。
地続きで、日常の行き来が頻繁に行われているグローバル地域。
この何年か勢いを増してきた極右政治グループなどによる移民・難民排斥運動は、雇用や社会保障の不安・不満を要因とするものですが、仮にUBIが導入されるとなると・・・。
混乱・暴動は必至ということになりかねません。

1国だけが先行してUBIを導入することの問題点


このことから武邑氏が指摘するように、1国だけでUBIを導入することには、それ以外の不安要因も加えて、相当に大きな壁が立ちはだかっていると考える必要があります。

私はBPを、日本国内だけに流通する、現金ではない一種の(国家)地域通貨としての専用デジタル通貨としていること、国際経済社会への影響を考慮し、事前にBPの内容等について、各国に十分に説明し理解を得ておくべきことなどを組み入れている理由が、そこにあります。

始まる、ドイツでのUBI実証実験とその概要

しかしながら、新型コロナがもたらしている社会経済的影響はあまりにも大きく、UBIの必要性あるいは関心とその期待は高まるばかりです。

武邑氏に限らず多くの人が抱く種々の批判や疑問があるなか、いよいよドイツでも今年2021年6月から、実証実験が始まります。

昨年2020年8月、ドイツでUBIの実証実験を行うべく、ドイツ経済研究所 (DIW)が主導する、民間事業「マイ・ベーシックインカム(Mein Grundeinkommen)」が、200万人の実験参加者を募ることに成功。
その目的は、
「UBIの主題に関して十分に根拠のある結果を取得し、白熱する議論を検証するため」です。
最終的に1,500人の研究参加者が多段階のプロセスで無作為に選ばれ、そのうち122人がいよいよ今年6月から3年間、毎月1,200ユーロ(約15万5千円)を受け取ります

そしてスイスに続く形で、国民投票を実施する動きも現実化してきています。

ドイツ及び全EUでの国民投票の呼びかけとモデル実験予定

2018年にスイスで国民投票が行われたことは、既に広く知られています。
そして、こちらドイツでも、ベルリンの政治団体「遠征ベーシックインカム(Expedition Grundeinkommen)」が、UBI実現に向けた国民投票を呼びかけつつ、2023年から独自の公的資金によるモデル実験を開始する予定と言います。

加えて、EU加盟国の活動家、組織、ネットワークで構成する「EU全体の無条件ベーシックインカムに関する欧州市民イニシアチブ」が、EU加盟各国で100万人の賛同署名を集めることを目標に、欧州委員会への働きかけを開始していることにも注目が集まります。


風雲急を告げる、というところまでは至っていませんが、6月からの実験開始と国民投票実施の呼びかけで、相当に機運が高まることは想像でき、かつ予測可能です。

この動向情報は、日本にもリアルタイムでもたらされるでしょう。
日本の場合は、どういう展開になるでしょうか。
少なくとも現状のままでは、まとまるものもまとまらないでしょう。

私の提案するBPは、実現までに10年はかかると想定しての取り組み。
他のほとんどの提案は、即時導入を望むもの。
デジタル通貨か現金かでも、混じり合うことは難しいですね。

社会問題の解決は、無論、速ければ速いほどよい。
日本でも、何かしらの実験からになるのでしょうね。
ベーシック・ペンションは、デジタル通貨にこだわります。
絶対的に現金支給!
となれば、それはそれでやるしかないとかと思いますが。

もしEU全体での議論・検討段階に入れば、グローバル社会が大きく変わる転換点になる可能性が高まります。
これからの数年の動向に注視すべきことも間違いありません。

UBIの本質は、安心・安全

最後にもう一度武邑氏の主張を参考に用いたいと思います。

UBIの重要な主題は、税金、資金調達、金額、実施モデルではなく、すべての人が生涯にわたって無条件に保護されることである。
一つはっきりしているのは、UBIは、誰もが自分のお金を増やすためのものではなく、誰もがより安全になるということなのだ。

無条件の基礎所得という考えは確かに良い考えだ。
しかし、善意から好結果への道のりは長く険しいことが多い。
限られた時間での実験では、UBIの好結果を確実に把握することは困難だろう
UBIを幻想に終わらせないためには、その可能性と課題をめぐる議論に抜本的な視点の変化が必要なのである。

そう。
「幻想で終わらせないためには、可能性と課題に関する議論に抜本的な視点の変化が必要」
なのです。

順序が逆になりますが、同氏はこのまとめの前に、一部繰り返しになりますが、こう言っています。

UBIは増税で賄われることになる。
これは主に、すでに高い税金を払っている人たちの労働意欲を混乱させるかもしれない。
税負担の増加によって、企業や高所得者層が海外に移転したりすれば、非公式経済で働くインセンティブを強化することにもつながる。
これらはすべて、ベーシックインカムの財源となる税基盤を侵食する可能性である。

そう。
「UBIは増税で賄われることになる。」
この断定を変える、この呪縛から脱却しなければ、幻想だけでなく、幻滅にさえ終わる可能性さえあるのです。

本当のところ、EUの動向・議論云々でなく、日本の現状とこれから想定される要素を、日本人独自の視点で考え、日本独自の思想と目的・目標をもったUBIをまとめあげ、導入する。
それが、結局、結果的に、実は意図したとおり、まさに普遍的なグローバルスタンダードになる。
そういうUBI、ベーシック・ペンションをと願っているのです。
それが、真に、社会の革新、社会システム・社会経済システムのイノベーションになりうると考えます。

ベーシックインカム実証実験事例紹介記事

カナダオンタリオ州ミンカム等ベーシックインカム、実験導入事例紹介-1(2021/3/6)
BI実験と効果誘導に必要な認識:ベーシックインカム、実験導入事例紹介-2(2021/3/7)
メディア美学者武邑光裕氏によるドイツの無条件ベーシックインカムUBI事情-1(2021/3/8)
ドイツでUBI実証実験、2021年6月開始:武邑光裕氏によるドイツUBI事情-2(2021/3/9)

<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい3つの記事>

⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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